学会に行ってきました

 さる9月23日〜26日、札幌の北海道大学キャンパスにて行われた日本化学会第77秋季年会に仕事で参加してきました。私は仕事では生物系が専門のため、生体関連のセクションに参加したのですが、その合間に陶磁器に関するセラミックや無機化学関連のセクションを見てまわりました。このHPは大学の先生とかも見てくれているようなので、私が興味を持った演題についてここでいくつか紹介したいと思います。なお、図表があればもっとわかりやすいのですが発表者の承諾を得ていないので割愛させていただきました。

K2O−Al2O3-SiO2系の反応と微構造 

ガラス中の中距離構造とガラス転移

カオリナイト層間を利用したゲスト分子の配向制御

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学会のメイン会場となった北大工学部


K2O−Al2O3-SiO2系の反応と微構造    鹿児島大学工学部

(概要)
 従来陶磁器は原料として珪石、長石、粘土を用い、粘土の可塑性を利用して成形されてきた。しかし、粘土資源は枯渇化の傾向にあり、非可塑性原料のみで陶磁器を作成するプロセスも必要とされている。本研究ではアルミナ、シリカゲル及び長石を用いて調製した各種試料を焼結し、アルミナ粒子のサイズと焼結体の強度の相関を調べた。

用いた試料
A:シリカゲル+γ−アルミナ(粒子径34nm)+長石
B:シリカゲル+α−アルミナ(平均粒子径0.20μm)+長石
C:シリカゲル+α−アルミナ(平均粒子径0.57μm)+長石

 各種試料を2℃/minで1200℃まで昇温し、1200℃で1時間保持した後、2℃/minで400℃まで降温した(大体SK6a〜SK7くらい)。各種試料につきX線回折を行い、生成した相の同定を行った。また、Aの試料については別に鋳込み成形を行った後、強度を測定した。

(結果と考察)
1.生成相の同定
 各試料についてX線回折を行ったところ、Aについてはクリストバライト、ムライト及び石英の生成が確認された(←つまり粘土の焼成と同じ反応が起こっているということです)。試料B,Cについてはムライトとクリストバライトの生成はほとんど認められなかった。いずれの回折パターンにもハロー散乱が観察され、ガラス相の生成が示唆された。

2.強度の測定
 試料の強度を測定したところ、54〜95MPa、ヤング率は74〜95GPaであった。

(結論)
 試料Aについては1200℃で十分反応し、状態図に合致する相を与えた。B、Cについてはα−アルミナが反応せず、残存していた。このことからナノメータサイズのアルミナ粒子では反応が完結するが、サブミクロンサイズの粒子では反応しないことが明らかになった。

私の感想:
 実は私はこの報告は聞けなかったのです(だから予稿集の要旨を記載しました)。陶磁器そのものに関する発表は数が少なく、是非聞きたいと思っていただけに残念です。粒子径が小さいと表面エネルギーは必然的に増えますので反応が進行するのは理にかなっています。もう一つ、アルミナの結晶多形の違いによる反応性の差はどうなっているのでしょうか?γ相は欠陥を持つスピネル構造ですので完全なコランダム構造を持つα相よりもエネルギー的に高く、α相よりも反応は進行しやすいような気がします。それを考えると試料Aの反応性が高いのは粒子径が小さいことと結晶の熱力学的安定性の相乗効果といえるような気がするのですが・・・(間違っていたらすみません)。
 いずれにせよ粘土を使わずに陶磁器を作るというのは面白い話ですね。しかしそうすると陶芸家は失業してしまうのでは(笑)。

ガラス中の中距離構造とガラス転移  京都大学化学研究所

 ガラスのラマンスペクトルを測定すると組成によらずほぼ普遍的にボゾンピークと呼ばれる励起が低エネルギー領域にみられ、ガラス転移のダイナミクス及び過剰比熱の原因といわれている。しかし、これらに関する構造化学的な考察はほとんど行われていなかった。本報告では石英ガラスのクラスターモデルを構築し、ab initio計算によってこのボゾンピークが再現されるかどうかを調べた。

 過去のラマンスペクトルの結果から石英ガラス中にはSi原子及びO原子からなる3員環構造及び4員環構造が存在することが明らかになっている。この構造は結晶性のSiO2には見られないものであり、演者らはこれらの構造が石英のガラス化に寄与するものと予想した。ab initio計算の結果から3員環構造及び4員環構造はエネルギー的に安定であり、振動モードを解析したところボゾンピークのエネルギー領域とほぼ一致した。また、この部分の波動関数は他の部分と相互作用が見られず、一種の「中距離秩序」が形成されているものと思われる。

 これらの結果から石英を冷却したときのガラス化は冷却時に安定な3員環構造及び4員環構造がSi-Oネットワーク中に形成され、結晶化を妨げるものと推定された。また、低分子であるグリセリンについても水素結合を介したの3員環構造が形成されることが知られており、同様の理由で結晶化しにくいものと思われる。

私の感想:
 熔融石英を冷却したとき結晶化しないことは良く知られていますが、これを構造化学的に解析したことは非常に興味深いです。もし可能ならば分子動力学を使ってガラス転移点付近の原子の挙動を再現できると面白いかも知れませんね。質疑応答の際、「3員環はあくまでも格子欠陥的なもので全体にその影響が及ぶとは考えにくい」といった意見もでましたが、材料の性能は不純物によって制御されることが多い事実を考えると私は演者の考えに賛成です。

カオリナイト層間を利用したゲスト分子の配向制御  早稲田大学理工学部

 カオリナイトはその層間にゲスト分子を取り込んで配向させることが知られている。本研究では大きな分極をもつp‐ニトロアニリン(pNA)を用いてカオリナイト層間にインターカレーションさせ、二次非線形光学効果(SHG)を検討した。カオリナイトをpNAで処理したものについてX線回折及び赤外吸収スペクトル測定を行ったところ、層間距離は1.11nmから1.49nmまで増大し、アミノの伸縮振動のシフトが認められたことからpNAが層間に取り込まれていることが示唆された。また、pNa分子は結晶中では対称中心を持つため、SHGを示さないがカオリナイトにpNAを反応させた試料はSHGを示したことからカオリナイト中でpNA分子が一定の方向に配向していることが推定された。

私の感想:
 少し陶磁器の話から外れますが、カオリナイトのインターカレーションの話です。配向制御のプローブとして非線形光学材料を使ったことが目新しいですね。この方法を使うと通常ではSHGを示さない物質でも置換基として分子の適当な位置にドナーとアクセプター基を配置することによりSHGを発現するでしょうね(勿論カオリナイトの層間に入り込む大きさでなければいけませんが)。何とか実用化できると面白いのではないでしょうか?
 この話に関連して余談を一つ、中国の宋時代に作られた磁器は非常に薄手で半透明なのですが、当時産出した粘土は可塑性に乏しいものであったことが知られています。どうして質の悪い粘土を使ってそんな薄手の作品ができたのか長い間謎とされていたのですが、最近の研究で当時の粘土を良く調べて見るとどうやら人の尿が混じっていたことがわかったんです。何故そんなことをしたのか?それは尿の中の尿素分子がカオリンの層間にインターカレートし、そのことにより成形性が改善されたと言われています。X線もIRもなかった宋時代に当時の人はその事実を経験的に知っていたんですね。

 

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